マウントエベレスト氏との別れ

ウチの事務所は6階にあり、廊下から見えるのは向かいのマンションのベランダです。

そこに木の看板を掲げている家があり、その看板には“TOP OF EVEREST”と手書きの白い文字が書かれていたのでした。
ベランダは他の住民からは見えないので、向かいの、まさに私の歩く廊下からしか見えない看板でした。 

私はその住民のことを心の中でマウントエベレストと呼んでいました。
6階には私以外にあまり人の出入りがなく、向かいのマンションもマウントエベレスト氏以外の人影を見かけることはほとんどありません。 

朝、10時前後にたらたら廊下を歩く私と、同じ時刻にベランダでたばこをふかすマウントエベレスト氏。
昼、12時過ぎにたらたら廊下を歩く私と、同じ時刻にベランダでたばこをふかすマウントエベレスト氏。 

こちらの廊下の方が少し見上げる位置にあるので、マウントエベレスト氏の部屋の中が少しだけ見えます。CDが積まれた部屋の中は雑然とした印象で、マウントエベレスト氏の風貌もまたそんな雰囲気でした。

しかし、実際にエベレストに登っているのなら、毎日ベランダで来る日も来る日もたばこをふかしているはずもないので、私と同じようにフツウの勤め人ではない何かだったのでしょう。 

ところが、ある日突然 “TOP OF EVEREST” の看板が外されてしまい、気がつけば部屋は空っぽになっていたのでした。 

カーテンのない部屋からCD棚の跡がうっすら見え、焼けた壁紙が哀しい雰囲気を漂わせていたのですが、それも束の間。
気がつけばリフォーム業者が入り、日に日に元マウントエベレスト氏宅は美しく変身していきました。

最初は壁紙が剥がされ、柱がむき出しになり、そして洒落たブルーグレーの壁紙が貼られ、部屋は見違えるようになりました。
もう全く“TOP OF EVEREST”ではないのです。 

次の住民はまだ来ません。

私は毎日マウントエベレスト氏が恋しくてならないのです。

元気が出る本屋の選書

という企画をやっている方がいらっしゃるそうで、本を三冊選びましたのでここにも載せておきます。

B-bookstoreさんのページはこちら

http://bioodbord.blog103.fc2.com/blog-category-1.html

『ちっちゃなほわほわかぞく』

熊なのか狸なのか、なんだかよくわからない“ほわほわかぞく”。そんな“ほわほわ”したものの日常が描かれているこの絵本は、可愛らしい絵もさることながら谷川さんの訳も素晴らしく、優しさに満ちあふれています。“ほわほわこども”がたくさんの愛をただ享受している、それが読み手にとって一番の“ほわほわ”になるのかなと思います。

『腰痛探検家』
辺境作家の腰痛治療という旅なので、まさに辺境を旅するがごとく、腰痛を体験した人が辿る通常の道を大きく逸れて、謎の診療所や獣医にまですがる姿が悲しくも面白いそんな腰痛本です。腰痛に囚われ、朝から晩まで腰痛のことしか考えられない方は、是非本書の文庫版あとがきを読んで頂きたいです。

『弱いロボット』
ロボットと聞くと「便利」「役に立つ」という言葉が思い浮かびますが、ここに出てるくるロボットはちょっと様子が違います。なかでも“ひとりではゴミを拾うことができないゴミ箱ロボット”が私はとても好きで、他者との関わりの中でコミュニケーションを手探りしている様子(そんな風に見える!)に、なぜだか妙に未来を感じてしまうのでした。

『Hidden Figures 』とあえて書きたい

最近観に行った映画は、なぜかどれもガラガラの劇場で観ていたので、久しぶりにちょっと混雑した状態で観ました。

隣の二人組の女性たちが大層賑やかにしていたり、前の人たちが通路を挟んでポップコーンを投げ合ったりするのを見てもイライラしてはいけません。

こういうときはどうするのか。

そう「ここはアメリカよ!」と思えば平穏な気持ちで見守ることができます。
我ながらナイスアイデア。 

そして『ドリーム』。邦題が残念すぎて泣けました。
これは公開前から邦題を巡って揉めていましたから〜って当たり前ですね。サブタイトルに“アポロ計画”って入ってたけど、アポロ計画じゃないしね。それは皆怒りますよ。

それにしても『ドリーム』になっちゃうあたりが悲しすぎる。ダサイ!!!ダサすぎる!
原題の“Hidden Figures”は結構かっこよいな〜と思っていたのに。これはダブルミーニングが日本語ではグッとこないってことなのかな。
変えるなら『善き人のためのソナタ』レベルのステキなのお願いします。 

そんでケビン・コスナーを久しぶりに見ました。そんなに気をつけて観ていなかったせいもあるけど、「元気だったんだね〜あんた」としみじみしてしまいましたよ。

ラズベリー賞取っちゃったけど、『ロビン・フット』が好きだったんだ〜。

映画は泣きつつ笑いつつで堪能。良い作品でした。
キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)がハリソン(ケビン・コスナー)に対して、自分が受けている様々な理不尽を訴えるシーンは涙なくしては観られません。みんな号泣だよ。

でも全体的に悲壮感が漂っているわけではなく(音楽とキャラクターのおかげ)、観た後はなんだか元気になれるので、辛いときに観ると良いのかも!